超初級者のためのミステリ話

マニアではない初級者によるモノ

ハードボイルド主人公と映像 Lew Archerの謎

 

 俳優ポール・ニューマン(1925-2008)は『ハスラー2』(The  Color of Money)で、1986年のアカデミー主演男優賞(Academy Award for Best Actor)を受賞した。この作品は、1961年の『ハスラー』(The Hustler)の続編だった。

 ニューマンがこのハスラー主人公"エディ"以前に、映画で同じ役を演じたのは、『動く標的』と『新・動く標的』の2作だった。主人公はルー・ハーパー(Lew Harper)。ロス・マクドナルド(1915-1983)原作小説のキャラクターである。ただし、原作とは名字が異なっていた。

 

 ニューマンは1956年の『傷だらけの栄光』で事故で亡くなったジェームズ・ディーン(1931-1955)の代わりに主役のボクサー、ロッキー・グルジアノ役に抜擢されて以降、映画俳優として注目されることになる。1960年代は本人にとって躍進の時代だった。

 

 1966年の『動く標的』(Harper イギリスのタイトルは、The Moving Target)は、興行的に合格で続編が作られた。1975年の『新・動く標的』(The Drowning Pool)もニューマン主演だったが、アメリカ・カナダでは興行的に振るわなかった。

 

 1966年の『動く標的』では、ニューマンは、ローレン・バコール(1924-2014)と共演した。バコールは、ハンフリー・ボガート(サム・スペードとフイリップ・マーロウを演じた)の元妻(夫とは死別)だった(オマージュを込めた意図的な配役である)。原作はロス・マクドナルドの『動く標的』(1949年)だったが、主人公名はLew Harper(原作はLew Archer)に変更されていた。

 1975年の『新・動く標的』も原作はマクドナルドの『魔のプール』(The Drowning Pool 1950年)だったが、こちらの映画の主人公名もルー・ハーパー。舞台がルイジアナ州になっており、石油利権が関わる話だった。

 

 1975年の映画続編に関して、当初、映画製作者側は、ニューマン以外の俳優で同じ原作者の『さむけ』(The Chill 1964年)を映画化しようと考えていた。しかし、これは実現せず、ニューマン主演で『魔のプール』原作の映画が作られた。

 

 2010年代には、『ギャルトン事件』(1959年)と『ブラック・マネー』(1966年)の映画化の話があった。

 

 1974年には、マクドナルド原作の『地中の男』(The Underground Man 1971年)がテレビ映画となった(『残酷の愛・殺人放火魔の正体』)。『スパイ大作戦』のピーター・グレイブス(1926-2010)が主演。

 

 テレビでは、1975年のNBCテレビ・シリーズ“Archer”で、6エピソードがあり、ブライアン・キース(1921-1997)主演だった。

 

 2002年には、アルゼンチン出身の監督による英語題名“The  Wolf of the West Coast”というテレビ番組があり、ジェームズ・フォークナー(1948ー)がLew Millarという探偵役だった。マクドナルドの短編小説の“Guilt -Edged Blonde”が原作。短編集『わが名はアーチャー』(The Name is Archer 1955年)の中の「罪になやむ女」(1954年)である。

 

 ロス・マクドナルドは両親が別れた後は、母親に連れられて親類の所などカナダ中を転々として、16歳までに50回も住所を変えたという。オンタリオ州南西部のキッチナー でハメットの作品に出会い、愛読するようになった。

 レギュラー探偵の名は、ハメットの『マルタの鷹』に出てくるサム・スペードの相棒(だった)“Miles Archer”に由来する。

 

 もう一つの由来は、ルイス・"ルー"・ウォーレス Lewis "Lew" Wallace18271905)というアメリカの政治家・著作家で、『ベン・ハー』の作者として著名だった。

 

 ところで、名前が”リュウ”だと、ハルキじゃないムラカミみたいだ。

 英語でscrewや Owen(人名)がどう発音するかと考えると・・・・。

 

  1回しか書きませんが、アノ探偵の名前って、

 

  「ルー・アーチャー」(Lew Archer)だよね?

 

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ハードボイルド主人公と映像 Spade & Marlowe

 1974年の映画『チャイナタウン』(Chainatown  監督:ロマン・ポランスキー 1933ー)は、ロサンジェルスの私立探偵が男の身辺調査をしたのを契機に、ある殺人事件の背後の巨大な陰謀に遭遇する話である(アカデミー脚本賞を受賞)。

 

 この作品でロサンジェルス政界の黒幕を演じたのがジョン・ヒューストン(1906-1987)だった。ヒューストンは、1941年の『マルタの鷹』(The Maltese Falcon)の監督で、これが初監督作品だった。

 実は、『マルタの鷹』が映画化されたのはこれが3度目だった。1931年と1936年にも映画化されており、1936年版は“Satan Met a Lady ”というタイトルでTed Shaneという探偵が活躍する話になっていた。

 

 1941年の『マルタの鷹』で探偵サム・スペード(Sam Spade)を演じていたのがハンフリー・ボガート(1899ー1957)で当たり役となった。ボガートは、1946年の『三つ数えろ』(The Big Sleep『大いなる眠り』)でフィリップ・マーロウ役をやった。

 

 1975年の映画“The Black Bird”は1941年『マルタの鷹』のコメディ続編という形で、ジョージ・シーガル(1934-2021)がSam Spade Jrという役をやった。

 

 フィリップ・マーロウ(Philip Marlowe)の役は、サム・スペードよりも多くの俳優が映画で演じている。

 

 ・"The Falcon Takes over"(1942年)

さらば愛しき人よ』(1940年)原作。マーロウではなく、The Falconというあだ名の探偵が登場する。ジョージ・サンダース(1906-1972)主演。

・“Time to Kill ”(1942年)

『高い窓』(1942年)が原作。Lloyd Nolanという俳優が 探偵Michael Shaneを演じた。

・“Murder, My Sweet”(1944年)

さらば愛しき人よ』(1940年)が原作。ディック・パウエル(1904-1963)が主演。パウエルは1954年のテレビ番組でもマーロウ役だった。

 

・『三つ数えろ』(The Big Sleep 1946年)

『大いなる眠り』(1939年)が原作。ハンフリー・ボガート(1899ー1957)。

 

・『湖中の女』(Lady in the Lake 1947年)

ロバート・モンゴメリー(1904-1981)がPhillip Marlowe(綴りが異なる)の役。

 ・The Brasher Doubloon (1947 年)

『高い窓』(1942年)が原作。George Montgomeryが主演。

 

・『かわいい女』(Marlowe 1969年)

『かわいい女』(The Little Sister 1949年)が原作。ジェームズ・ガーナー(1928-2014)が主演。

 

・『ロング・グッドバイ』(The Long Goodbye  1973年)

ロング・グッドバイ』(1953年)が原作。                         エリオット・グールド(1938ー)主演。1970年代が舞台?の作品。

 

・『さらば愛しき人よ』(Farewell, My Lovely  1975年)

ロバート・ミッチャム(1917ー1997)主演。

・“The Big Sleep”(1978年)

『大いなる眠り』(1939年)が原作。ロバート・ミッチャム(1917ー1997)主演。1970年代のイギリスが舞台に。

 

・『探偵マーロウ』(“Marlowe” 2022年)

ジョン・バンヴィル(John Banville 1945ー)の『黒い瞳のブロンド』2014年

(『ロング・グッドバイ』の続編小説)が原作。リーアム・ニーソン(1952-)。

 

テレビ放送でもマーロウは登場した(カッコ内がマーロウ役の俳優)。

 

・1950年にNBCテレビで“The Big Sleep”。

・1954年にCBSテレビで“The Long Goodbye”(ディック・パウエル)。

・1959年にABCテレビで“Philip Marlowe”(フィリップ・キャリー 1925-2009)。

・1983年-1986年に“Philip Marlowe, Private Eye” というテレビ・シリーズ

パワーズ・ブース 1948-2012)。

 

・1995年には、テレビシリーズのFallen Angelsでの“Red Wind”(1938年の短編小説: 

ダニー・グラヴァ 1946-)。

 

・1998年に“Poodle  Springs”(ロバート・B・パーカー原作の『プードル・スプリングス物語』。ジェームズ・カーン 1940-2022)。

・2007年のテレビ・パイロット版の“Marlowe”(ジェイソン・オマラ 1972-)。

 

 

 1973年の映画、『ロング・グッドバイ』(監督:ロバート・アルトマン 1925-2006)は。アーノルド・シュワルツェネッガー(1947- )が端役(チンピラ役)で登場していることで有名。

 マーロウは、愛猫家のヘビースモーカー探偵として描かれている。主演のグールド(84歳)は今も存命中だ。

 

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著名なハードボイルド小説家たち

 

パルプ・フィクション』は1994年のアメリカ映画(アカデミー脚本賞を授賞)。今回はパルプ・マガジン(Pulp magazines)で始まる。

 

  昔のハードボイルド小説家ーというと、”パルプ雑誌”(1950年代まで存在した紙質の良くない安価な雑誌)に小説や記事を書いて糊口を凌いでた人々という(勝手な)印象がある。

 実際に、ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドもそうした雑誌に小説を書いた(アシモフやウールリッチ、クイーン、クリスティ、フィッツジェラルドも)。

 

 ロス・マクドナルド(1915-1983 Ross Macdonald)は、カリフォルニア州生まれのカナダのオンタリオ州育ち。4歳の時に父親が家族を突然捨てたために、母親とともに親類の所を転々とする。16歳で地元に戻って勉強し、ウェスタン・オンタリオ大学に進学する。卒業後は、高校に教師として数年間務めた。戦時中は海軍で通信将校として軍務に就いている。1946年には家族でサンタバーバラに引っ越す(1938年に結婚)。

 

 いわゆる”パルプ雑誌”で自分の作家キャリアを始めて、最初の4編の小説を本名(ケネス・ミラー Kenneth Millar)で発表している。

 ミラーはミシガン大学で学び、1952年に文学の博士号(PhD)を取得している。

 

 チャンドラーの未完の小説『プードル・スプリングス物語』(Poodle Springs)を1989年に”完成”させたロバート・B・パーカー(Robert Brown Parker 1932-2010)は、1971年にボストン大学マサチューセッツ州の私立大学)で英文学の博士号(PhD)を取得している。

 

 ハードボイルド作家、なぜかインテリである。

 

 レイモンド・チャンドラー(Raymond Chandler 1888ー1959)は、大学には進学してないが、ロンドン南部にあるパブリック・スクール(イギリスの私立有力校)で学んだ(後に公務員になったが、すぐに辞めた)。

 元々は、シカゴ生まれのアメリカ人だった。ネブラスカ州に移った後、レイモンドの少年期、アル中の土木技師だった父親は家族を捨てている。

 

 ハメット(Samuel Dashiell Hammett 1894-1961)はいわゆるインテリではない。

 10代の時に父親の健康悪化のために、学校を中退していくつかの職に就いた後、ピンカートン探偵社(Pinkerton National Detective Agency)で探偵(operative)として働くことになる(1915-1922)。そこで、ピンカートンがスト破りに果たした役割に幻滅したという。

 ハメットは、生涯の多くの時間を左翼活動家として過ごした。1930年代は反ファシストの立場をとり、1937年に共産党に参加している。1951年には、政府への情報提供を拒んだために、法廷侮辱罪で訴えられて有罪になり、服役している。

 

 ハメットは66歳の時に、ニューヨークのマンハッタンの病院で肺ガンのために亡くなった。

 ちなみに、チャンドラーは過度の飲酒の末に、70歳でカリフォルニア州サンディエゴの病院で亡くなった。ロス・マクドナルドことケネス・ミラーは、67歳の時にアルツハイマー病で亡くなった。

 

 人生いろいろ、晩年もいろいろである。

 

ハメチャンロスマクとハードボイルド・ワンダーランド

 ハメチャンロスマク。

 

 奇妙な呪文ではない。下品話をしようというわけでもない。

 

 ハメット、チャンドラー、ロス・マクドナルドについて述べたいだけだ。

 誰が言ったかこの言葉。

 ともかく、この3人はアメリカ・ハードボイルド小説の代表的な人たちである。

 

 1920年代の”ハードボイルド”は単に登場人物のタフでシニカルな態度を示すのに使われ、”ハードボイルド・フィクション”のようなジャンルの意味では用いられてなかった(用いられたのは戦後か?)。

 ハードボイルドは、アメリカの1930年代–50代が全盛期だと言われている(ただし、ロス・マクドルドは1960年代に代表作を残した)。

 

 前回の”黄金期”にハードボイルド作品を加えてみよう。

 

・1929年

『赤い収穫』Red Harvest (ハメット)

『デイン家の呪い』The Dain Curse(ハメット)

『僧正殺人事件』The Bishop Murder Case.(ヴァン)

『 ローマ帽子の謎 』The Roman Hat Mystery(クイン)

・1930

『マルタの鷹』The Maltese Falcon(ハメット)

『牧師館の殺人』The Murder at the Vicarage (アガサ)

  • 『カブト虫殺人事件』 The Scarab Murder Case.(ヴァン)
  • 『フランス白粉の謎』 The French Powder Mystery (クイン)
  •  『夜歩く』It Walks by Night (カー)

 ・1931年

『ガラスの鍵』The Glass Key(ハメット)

『ケンネル殺人事件』The Kennel Murder Case(ヴァン)

オランダ靴の謎』 The Dutch Shoe Mystery (クイン)

・1932年

ギリシア棺の謎』 The Greek Coffin Mystery(クイン)

エジプト十字架の謎』 The Egyptian Cross Mystery(クイン)

『Xの悲劇』The Tragedy of X(クイン)

『Yの悲劇』The Tragedy of Y(クイン)

・1933年

『闇の中から来た女』Woman in the Dark(ハメット)

  • アメリカ銃の謎』 The American Gun Mystery(クイン)
  • 『シャム双子の謎』The Siamese Twin Mystery(クイン)
  • 『Zの悲劇』The Tragedy of Z(クイン)
  •  『レーン最後の事件』 Drury Lane's Last Case(クイン)

・1934年

『影なき男』The Thin Man,(ハメット)

オリエント急行の殺人』 Murder on the Orient Express  (アガサ)

『チャイナ橙の謎』The Chinese Orange Mystery(クイン)

・1939年

『大いなる眠り』The Big Sleep (チャンドラー)

そして誰もいなくなった』And Then There Were None (アガサ)

 

 探偵小説の黄金期は、ハメットの全盛期であり、最後にチャンドラーが出てきた時期だった。

 

 生年&没年は、

レイモンド・ソーントン・チャンドラー(1888年7月ー1959)

S.S.ヴァン・ダイン1888年10月-1939)

アガサ・クリスティー (1890年–1976)

サミュエル・ダシール・ハメット(1894年-1961)

エラリー・クイーン (1905年-1971と1905年ー1982)

ジョン・ディクスン・カー1906年-1977)

ロス・マクドナルド(ケネス・ミラー 1915年-1983)

 

 最も若いロス・マクドナルドが生まれたのが1915年(大正4年)。

第一次世界大戦の2年目。日本が袁世凱政権に対華21ヶ条要求。芥川龍之介羅生門』の年だった。

 黄金期?

 かつて黄金期があった。

 

 といっても、佐渡の金山の話ではない。

 東北の砂金話でもないし、1940年代後半のアメリカ合衆国西海岸のことでもない。

ましてやサッカーの若手世代のことでもないし、アニメの話でもない。

 

 これはミステリについての話である。

 だが、日本の「新本格派」についての話でもない。

 

 英米などの1920-1930年代の探偵小説(特に本格推理小説)の黄金期のことだ。

 

Golden Age of Detective Fiction

 

 その時期の多くがイギリス人で、

アントニー・バークリー(別名フランシス・アイルズ, 1893–1971), ニコラス・ブレイク (1904–1972)、 G. K.チェスタトン (1874–1936)、 アガサ・クリスティー (1890–1976),  F. W.クロフツ  (1879–1957), R.A.フリーマン (1862–1943)、 ロナルド・ノックス (1888–1957),  フィリップ・マクドナルド(1900–1980), ドロシー・セイヤーズ (1893–1957), ジョセフィン・テイ (1896–1952)

などがいた(チェスタトンのブラウン神父ものは1910年代から書かれてる)。

 

 もちろんアメリカ人もいて、

 S. S.ヴァン・ダイン、 E.D.ビガーズ、ジョン・ディクスン・カーエラリー・クイーン、 E. S.ガードナー、レックス・スタウトがおり、

それ以外に、レイモンド・チャンドラーダシール・ハメットというハードボイルド小説の書き手もいた。

 

 いわゆる”本格推理”小説に限定すれば、

 アガサ・クリスティー (1890–1976)と

S. S.ヴァン・ダイン(1888-1939)、ジョン・ディクスン・カー(1906-1977)、エラリー・クイーン(1905-1971と1905-1982)に注目することになる。

 

主な作品を時系列で記すと、

 

1920年

『スタイルズ荘の怪事件』The Mysterious Affair at Styles (アガサ)

・1926年

アクロイド殺しThe Murder of Roger Ackroyd  (アガサ)

『ベンスン殺人事件』The Benson Murder Case (ヴァン)

・1927年

カナリア殺人事件』The 'Canary' Murder Case(ヴァン)

・1928年

『グリーン家殺人事件』The Greene Murder Case (ヴァン)

・1929年

『僧正殺人事件』The Bishop Murder Case.(ヴァン)

『 ローマ帽子の謎 』The Roman Hat Mystery(クイン)

・1930年

『牧師館の殺人』The Murder at the Vicarage (アガサ)

  •  『夜歩く』It Walks by Night (カー)

・1931年

『ケンネル殺人事件』The Kennel Murder Case(ヴァン)

 『オランダ靴の謎』 The Dutch Shoe Mystery (クイン)

・1932年

ギリシア棺の謎』 The Greek Coffin Mystery(クイン)

エジプト十字架の謎』 The Egyptian Cross Mystery(クイン)

『Xの悲劇』The Tragedy of X(クイン)

『Yの悲劇』The Tragedy of Y(クイン)

・1933年

  • アメリカ銃の謎』 The American Gun Mystery(クイン)
  • 『シャム双子の謎』The Siamese Twin Mystery(クイン)
  • 『Zの悲劇』The Tragedy of Z(クイン)
  •  『レーン最後の事件』 Drury Lane's Last Case(クイン)

・1934年

オリエント急行の殺人』 Murder on the Orient Express  (アガサ)

『チャイナ橙の謎』The Chinese Orange Mystery(クイン)

・1935年

『スペイン岬の謎』The Spanish Cape Mystery(クイン)

  • 『死時計』Death-Watch 『死時計』(カー)
  • 三つの棺』 The Three Coffins (カー)
  •  『赤後家の殺人』The Red Widow Murders (カー)

・1936年

ABC殺人事件The A.B.C. Murders (アガサ)

『ひらいたトランプ』Cards on the Table(アガサ)

『途中の家』Halfway House(クイン)

・1937年

『ナイルに死す』Death on the Nile (アガサ)

・1938年

1939年

そして誰もいなくなった』And Then There Were None (アガサ)

 

上の

アガサ=アガサ・クリスティー、ヴァン=S. S.ヴァン・ダイン

クインエラリー・クイーン、 カー=ジョン・ディクスン・カー

である。

 

1932年と1933年のエラリー・クイーンの仕事は人間業とは思えない。一人でやったこととは到底思えない(まあ実際、一人ではやっていないが)。

 

 

ドンキの謎

 最初はドンキについてである。

 

「ドンキは、小売店あるいは量販店である」

 

などということを言いたくて文章を書いてるわけではない。

 

 鈍器(ドンキ)についてである。

 

新聞などで「被害者は鈍器のようなもので殴られ・・・」という記事を見かけることがあるが、違和感を感じる人はいないだろうか。

「鈍器のような」だって?

 

たとえば、「象のような形の雲」や「キツネのような動物」みたいに、見たことがあるとか、具体的なモノを想像できる形容ならばわかる。

 でも「鈍器のような」みたいな形容はねえ・・・?

 

「ソレって、ナニを想像すればよいの?」と言いたくなる。

 

そもそも、一般の読者やテレビ視聴者は、”鈍器”という語から何を想像できるだろうか。

 ネットで鈍器画像を見てみると、様々な道具(凶器)が見られる。

 スパナ、金づち(ハンマー)、バット、バール、鉄パイプ・・・。

 

 『デジタル大辞泉』で「鈍器」を見ると

 切れのにぶい刃物。
凶器となりうる、こん棒・れんがなどのような、固くて重みのあるもの。

 

 とある。

 <こん棒>って・・・。

 個人的には、「こん棒」という語は、昔の童話でよく見かけるくらいである。

 なぜか、西洋童話では、「こん棒」という語をよく見たような記憶がある。グリム童話とか(「テーブルよ食事の用意を!」)。

 治安がとっても悪かったのね?

 

 どちらにせよ、今日でこん棒を持ち歩いてる人にお目にかかることはめったにないだろう。

バットならあるね。スパナは特定の職の人やメカ好きでないと。

 

 犯罪事件で、凶器が鋭利な刃物か「鈍器」かはそんなに重要なことだろうか。

 事件現場や被害者の傷の様子を見ればすぐわかるのにね。

 

 まあ、事件が衝動的なものか計画的なものかを知る大切な手がかりかもしれない。鈍器ならば、たまたま手にしたとか、自衛のために所持してたと言えるだろうが、刃物を持ち歩く人はまあいない。「他者に殺意があったから、刃物を持ち歩いてたのだろう」と推定しやすい。

 鈍器が凶器の場合は、鋭利な刃物にくらべると、犯罪実行者が必ずしも血痕が付着していないということも重要だろう。

 でも、まあ鈍器に類する物も日常的に持ち歩かないよね?

 

 「あんな奴が上司ならば、アタシあいつに鈍器を一発お見舞いしてやるわ」

 などとフツー?の会話で出てくるほどには、”鈍器”という語は日常会話向きではない。

 ”ドンキ一発”と受け取られたら、会話が成立しないだろうね(商品券でも手渡すのかと思われるか?)。

 もちろん、「スパナでメッタ打ちにしてやるわー」では話し相手に引かれる。日常会話的にはマズいだろう。

 

 鈍器は英語で blunt instrumentと記す(blunt は〔刃・先などが〕とがっていない、切れ味の悪い)。

 ちなみに、楽器は、musical instrumentだ。

 

 丸みのある楽器も犯罪に使えるかもね。ドスンと一発・・・・。